『サマーウォーズ』(角川文庫)

イカ、映画『サマーウォーズ』のネタバレしまくり注意。名作だから映画館で観れ絶対。




映画『サマーウォーズ』、名作ですよ。2回観ちゃったぜ。

ただ、シナリオ的に若干もったいないところや、惜しいところがあるのも確かです。もったいないところは最終決戦の誘いにラブマシーンが乗ってくるのがご都合主義のように感じられたり、その最終決戦に夏希が登板するのがビジュアル的な演出目的に感じられたところ。惜しいのは夏希が恋人役は健二でも誰でもよくて、本命は侘助な尻軽っぽく感じられて、あのハッピーエンドでも「この2人は時間経ったら別れそうだなー」と思えるところ。

ですが、この岩井恭平版のノベライズはこのイマイチな部分を綺麗に修正しています。100点満点と思えた映画版ですが、このノベライズを読んでしまうと映画版は92点だったと思い直しました。で、このノベライズのシナリオでそれが100点になります。「映画か、ノベライズかどっちか」と言われたら絶対に映画を薦めるのですが、「映画を観た上でノベライズも読むべき?」と聞かれたら「読むべき」と答えます。

ちなみに、映画ではラブマシーンは「好奇心を与えた」と説明されていますが、このノベライズでは3つのアルゴリズムでより短期間に高度の”進化”をするAIだと説明されます。そのアルゴリズムは「”混乱”を起こし、それによって呼び寄せた者の”挑戦”を受け、それに勝利した上で”吸収”すること」。なんというラブマ。「好奇心」のみであのラブマの行動はいまいち納得いかなかったのですが、「”混乱””挑戦””吸収”」のアルゴリズムならあの行動はそのままですし、最終決戦でラブマが挑戦から逃げなかったこともしっくりきます。また、最後の勝負を夏希が行う理由ですが、ノベライズでは栄を言わしめて「天性の勝負運を持つ」と説明されています。

また、ノベライズでは健二と夏希の甘酸っぱさが7割増しになっています。夏希は親族以外の男に触れない古風な恋愛感を持った少女で、健二は実は唯一話せる男子。健二も健二で、数学オリンピックに出場したのは、夏希と並ぶことができる男になりたいという一大決心だったことが明かされます。そういえば健二が数学オリンピックなんて晴れ舞台に挑戦してたのって言われてみると違和感ありますもんね。そうか、そういう理由か。

夏希が侘助が好きな理由も、妾の子として一族に冷たくされていた侘助に仲良くしてやってくれ、と大おばあちゃんに頼まれたというのがきっかけ。夏希、本当に大おばあちゃんっ子です。そもそもの発端、「大おばあちゃんが夏希が恋人を連れてくる約束をする」ということ自体があの大おばあちゃんがそんなこと言うかな?、と若干違和感があったのですが、ノベライズではそれも説明されてます↓。

「あたしのせいだねえ」
 栄が茶をすすり、嘆息した。
「あんまり昔話を聞きたがるもんだから、あたしも嬉しくてね。ついでにうちの人の愚痴を聞かせすぎた。やれ甲斐性無しだの、金遣いが荒いだの、子供に聞かせる話じゃなかったよ。おかげで色恋に関しちゃすっかり臆病になって、普通に触れ合えるのが親戚の男だけなんてことになったもんだから、余計に(注:侘助に)べったりくっつくようになって・・・・・・」
 夏希は俯き、唇を引き締める。
 違う。彼女はただ、曾祖母の武勇伝を聞くのが大好きだっただけだ。戦時中や戦後を生き抜いてきた栄の人生は、まるで数々の戦場をくぐり抜ける武将のように勇ましかった。生きるだけで大変な時代を、栄は家族を守り抜き、こうして何の不安もなく食卓を囲めるまでに導いてくれたのだ。
 夏希が今、こうして田舎が好きで、親戚や家族という絆が何よりも大切だと思えるようになったのは、曾祖母のおかげだ。
 だからこそ、自分のせいだとしきりに後悔する栄を安心させてあげたかった。(P133)

で、夏希にとって恋人候補が健二でも佐久間でも誰でもよかったのかというとそんなことはなく。夏希は気さくな性格で、男子と友達にはすぐなれるのだけれど、仲良くなると必ず告白されてしまう。前述の通り、男が苦手なので告白を断ってしまい、疎遠になってしまうと・・・。結果として、長年の男の知り合いは健二だけだったり。バイトを持ちかけた時も部室に健二しかいないと思っていたので佐久間もいたのは誤算でした。(・・・佐久間・・・・・・つД`)) ちなみに健二はじゃんけんで佐久間に勝つわけですが、この時健二は過去の佐久間とのじゃんけんを分析してほぼ完璧に勝利を掴んでいます。さすが数学オリンピック日本代表のなりそこね・・・。

最後に侘助に「なんだ、夏希をとられると思ったのか?」と言われ、和解(?)。ここまでくるともうなんの文句もなく健二×夏希ですよ。甘酸っぱいですな。恋愛モノとしてはヲタが好みそうな、”綺麗すぎる”感じなのですが個人的にこっちのほうが好きです。ドロドロした話きらいー。


その他のノベライズで明かされた話としては、序盤のOZの説明ムービーは友人の佐久間のバイトとしての作品だったり、ラブマを閉じ込める城トラップは佐久間の作品だったりします。実は佐久間、モデリングのプログラムではプロ並だそうな。・・・一般人代表だと思ってたのに・・・。

そういえば、ノベライズでは健二のみがOZのパスワードを解いた張本人のままです。つまり、混乱の一旦の責任を負ったままなのですが、健二の成長という意味ではこのほうが良いだろうと思いました。



映画を観た後「正直ノベライズは不要だなー」と思っていたのですが、『ムシウタ』が好きなので買ってみたところ、想像以上によくできたノベライズでした。映画とストーリーが大きく異なることもないので、本当に92点を100点にするという8点分のプラスしかありません。それでも、『サマーウォーズ』が好きならば、『サマーウォーズ』を100点満点味わいきることができるノベライズ版です。

サマーウォーズ (角川文庫)

サマーウォーズ (角川文庫)