海原 零 (著)銀盤カレイドスコープ (Vol.5) 集英社スーパーダッシュ文庫★★★★★★★★★★

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4086302551/qid=1127891905/sr=1-1/ref=sr_1_10_1/250-3416287-2597032


「最初に言っておくけど、貴方とつき合うつもりはないわ」
「どうしてだい?」
 瞬時に、一応の説得力を孕んだ1ダースもの理由が頭を駆け巡る。ただ、それらの根っこは常に――
「私と釣り合う男なんて、この世に存在しないからよ」(P94)




シリーズ最高。


ごめん!「アニメ化だからテコ入れのために即興で薄っぺらい話をとりあえず数だけは出版するんだろ?」とか思ってごめんなさい!


いや、だって元々そんなに筆の速いほうでもないのに、漫画化、アニメ化が決まってから「小説もぞくぞくとリリース決定☆」なんて言われたら、ほら、出版社からの要望なんだろうなぁって思うのも無理ないじゃん!? いや実際そうなのかもしれないけどとにかく面白かった!1巻(+2巻)はシリーズとのファーストコンタクトということもあって評価しにくいんですが、それを除けばシリーズで一番面白かったです。


このフィギュアスケートという只でさえ文章では表現しにくい題材を見事な筆力で描き(初心者でも場面が容易に想像できる)、かつ魅力的なキャラクターに格好いいスタンスを持たせているシリーズ。主人公はあくまでタズサ(高慢ちきな日本一の嫌われ者。ただしマスコミ報道において)なんですが今回のもうひとりの語り部は芸能界でも活躍するジュニアチャンピオン・キャンディ。


(マスコミ的に)嫌われ者のタズサと世間の人気をほしいままにするキャンディ。2人は過去の1点において別の方針をとったお互いに”もうひとりの自分”。人格的に非道なわけではなく、ただ自分があるがまま生きているために周りとの軋轢が絶えないタズサをみかねたキャンディはなんとかイメージアップ作戦を図るが……


とまあ、あらすじはこんな感じですが、今回際だったのはタズサの凄さ。ジャ○プを引き合いに出すまでもなくシリーズモノというものは強さのインフレが宿命なのですが、読者の目線が主人公と同じなので「どれだけ強くなったのか」が実感しにくいものですよね。その時の敵とその時の主人公の力量差は(絶対的には上昇しているが2者の相対としては)シリーズ通して大体一定なのです。


で、そこで今作ですよ。タズサとの比較に用意されたのは世界的な芸能人でスケートでもジュニアでチャンプ、もうシニアに行ってもすぐに勝てるわ、と自信満々のキャンディ。この勝負は是非自分の目で確認してほしいですが他人から見たタズサの凄さがまざまざと見せつけられます。


正直最初キャンディあんまり好きじゃなかったんですよね。せっかく百合フラグのたちかけたリアを登場させず、「なんでぽっと出の新キャラ出してリアの出番とってんだこのぶりっこアイドルが」とか思いました(笑)。まあ過去話を読んだ時点で「ああ、だったら仕方ないな」と一気に好印象に翻ったあたり見事に海原マジックにはまってますか? いや、でもホントこの作者は「言動・行動が嫌われ者の行動なのに、どうしても嫌いになれないキャラ」を描くのがうまいなぁ、と思います。主人公のタズサ(毒舌・タカビー)なんてさじ加減ひとつ間違えば読者から総スカン喰らうくらいの絶妙なキャラだと思いますし。


しかしキャンディ、最初アニメのためのテコ入れ(=シリーズ引き延ばし)のためライバル・リアの登場を遅めた為の代役だと思ってましたがこのタズサの魅力を再確認する本作においては不可欠なキャラでした。


そういえばキャンディVSタズサの場面も好きなんですが、同じくらい印象的だったのが世界のトップ選手と和気藹々と話すタズサ。いやタズサ自身が世界トップランクなので当然なんですが、今まで名前だけだった有名選手の面白い一面も垣間見えたこともあってとても印象的でした。常に争うライバル同士なのに冗談を言い合って、そして(マスコミでは)嫌われ者のタズサが友人として楽しそうに談笑してるのがうれしかったですね。


余談ですけどP166「もし彼が――ステイシーファンのアイツが今日のあれ見たら、鼻血でも噴いて卒倒するのかしら?」の部分は同じくファンであるキャンディに誘惑されている秀悟とダブらせて、ひいてはタズサとヨーコの姉妹を比較してるのかしら。


そうそう、今回やたらピートを思わせる部分が多かったですね。ピート好きなんでその台詞のたびにちょっと切なくなったのですが、これはピート復活(≒実は死んでない)フラグと思っていいんでしょうか?(笑) ちょっと陳腐になるかなーと思わなくもないですが、やっぱりそれがいいなぁ。「タズサの自伝」として書かれている「銀盤カレイドスコープ」、ゆえに話は”回想”であるわけですが書かれているのがそう先の未来でもないことが今回のラストで判明しましたし、ピートに関しては期待してもいいんじゃないかと。