文庫版が発売されるので北山猛邦特集!

ミステリ部門「個人的に応援したい作家」ランキング1位の北山猛邦のデビュー作『城』シリーズが本日文庫化ですよ! ひょっとしたら増刷すらされていないのにっ!(されてたらごめんなさい)

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

『クロック城』殺人事件 (講談社文庫)

あ、でも表紙キモ…あまり初見で手にとってもらえそうにないなぁ……まあ1作目買ったら残りのノベルス版も揃えちゃうこと請け合いだから最初からノベルス版買っちゃえばいいんじゃね?
『クロック城』殺人事件 (講談社ノベルス)『瑠璃城』殺人事件 (講談社ノベルス)『アリス・ミラー城』殺人事件 (講談社ノベルス)『ギロチン城』殺人事件 (講談社ノベルス)

さて北山たんですよ北山たん。ラストのラストのどんでん返し、驚愕の真実。思わず序盤のページをめくってみて…「マジだ! SUGEEEEEEEEEEEEEえ!!!!!!」と叫ぶ、それが北山マジック。ミステリの醍醐味ですねぃ。世界設定、キャラクターともライトノベルと親和性が高いものなのでこのサイトを見てる人なら割と気にいってもらえるんじゃないかなーっと。

『城』シリーズは現在4冊。時系列はバラバラで、登場人物も再登場はしません。世界が一緒なだけ。なのでちょっと微妙な1作目(『クロック城』殺人事件 (2002年3月) )から読む必要はなく、個人的ベストな『瑠璃城』殺人事件 (2002年7月) 、『アリス・ミラー城』殺人事件 (2003年5月) あたりからがオススメかも。ちなみに文庫で揃えようと思ったら2年のブランク後の発売の『ギロチン城』殺人事件 (2005年2月) までが長いかも。

さて、それぞれの作品についてですが冷静になってしまった今より、当時の感想のほうが熱が入ってるので昔の自分にバトンタッチ(笑) 北山猛邦、オススメ。

★★★★★★★★☆☆

「屍体を目の前にして、誰かとキスしたことありますか?」(P158)

時は1999年。あと1ヶ月で世界が滅ぶことが約束された世界。
探偵・南深騎は「ゲシュタルトの欠片」と呼ばれる”幽霊”をボーガンで殺している。
『クロック城』に棲むという”時間に穴を空けて人を喰う化け物”スキップマン退治を依頼された探偵はその城に赴くがその途中『真夜中の鍵』を捜すSEEMに襲撃を受ける。

『真夜中の鍵』とは一体何か?誰か?
世界を破滅される鍵であるとし、鍵の破壊を掲げる武力組織”SEEM”
世界を救う鍵であると見なし保護しようとする組織”十一人委員会”

現在、過去、未来。別々の時を刻む三つの大時計を持つクロック城に謎の鐘が鳴り響いた夜、礼拝室に首なし死体、眠りつづける美女の部屋には二つの生首が置かれていた――



はい、最後に首切り死体が出るまでは推理小説とは思えませんね(笑)
なにより世界の終末、って舞台が素晴らしい。ノストラダムスも笑い話にしかならない2002年にこの設定に挑んだのは凄い。しかも推理小説で。さらに言えば”幽霊”とか、”結界”が普通に存在します。推理小説なのに。
もっともトリックの部分に”結界”などは入ってこず、そこはフェアな物理トリックです。流石”物理の北山”(先日のトークライブでスクリーンに出た紹介文)。

帯には「208頁の真相を他人に喋らないでください。」とあるのですが、正直物理トリックよりも世界観・登場人物たちに惹かれましたね。うん、結構オススメ。

★★★★★★★★★★

「もういいわ、こんな話やめようよ」君代は新聞のコピーを放り出して、霧冷に体を寄せた。「人生はとても短いの。ね、月の話をして」
「月の話?」
「うん」
「どんな?」
「引力とか」
「ぼくらは月の引力の中で暮らしている」
「他には?」
「質量を持つあらゆる物質は引力を有する」
「じゃあ霧冷さんが今私にくっついているのは、私の引力のせいよ」
「いや、君の意志だ」 (P86)

「壊してしまったら、もう私たちは会えないのよね。ねえ、私時々考えるのよ。もしかしたら、このままでもいいのかもしれないって。ほんの少しの痛みを我慢すれば、私たちは永遠に生まれ変わり続けて、ずっと一緒にいられるでしょう。それとも、私と一緒にいるのは嫌?」
「すぐに飽きるさ。永遠なんて、想像もできない」
「私は想像できるよ。永遠というのは、たった一つの点なのよ。その点に留まり続けることを永遠と呼ぶのよ。私たちは、いつも無数の点から点へ飛び跳ねることで、時間を感じている。けれども永遠は、何処にも繋がらない、ただ一つの点よ。何の流れもないわ。すべてが静止していて、すべてが変化のない世界」
「すると永遠の世界に行けたとしても、ぼくらは生きていないただの人形になってしまうんだね。喋ることもない、呼吸することもない、触れ合うこともない。退屈だよ」
「いいえ、素敵よ。ずっと一緒なのよ」
「死ぬことと、どう違う?」
「違わないわ。恋人たちにとってはね」 (P117)

「運命なんて言葉はやめようよ。無秩序というのは運命に逆らおうとする力なんだよ。とても素敵な力。秩序という規則正しく、整然として、整合性に保たれた世界に抗う力。それがボクの云う無秩序なんだ。誰もが定められた『運命という名の秩序』に対抗しようと頑張っている。無秩序が秩序より常に多いのはそのためなんだ。 (P203)

始まりは1243年、フランス「瑠璃城」。
城主の娘マリィと愛し合う騎士レイン。

だが6本の短剣が楔となりマリィとレインは悲恋のうちに転生し続けることになる。

1916年、第一次世界大戦中のドイツ×フランス前線の塹壕
1971年、日本の大学の駐車場。

二人は短剣に惹かれ再会する運命にある。
互いは互いを短剣で殺さなくては死ぬことはできず、そうして死ねば必ず転生する。
短剣への供物として繰り返される首なし死体と死体消失。

全ての時代に現れ、無秩序を管理する「探偵」だと名乗る少年スノウウィ。

そして物語の終結は1989年、日本「最果ての図書館」へ――


繰り返される二人の歴史に”物理の北山”が仕掛ける数世紀にわたる壮大な”物理トリック”!



と、煽り文を作ってみる。
いやぁ、面白かった面白かった。デビュー作の『クロック城』よりこっちのほうが好きだな。こういうギミック大好き。世界観が繋がってるのかまだ不明ですが登場人物は被っていないので単体で読み始めてまったく問題ありません。推理小説の他に”転生”というギミックがあるので推理好きじゃなくても楽しめると思いますよ。

ちなみに『クロック城』では「世界の終わり」、『瑠璃城』では「転生」と非現実的な要素を入れてくる北山作品ですが、トリックは正統な物理トリックなので御安心を。ふと思ったけど北山さんは書式は本格推理小説なんだけど書いてるのはジュニア小説寄りなんじゃないかと。「転生」とかいう少年少女好みのギミックといい、3作目の『アリス・ミラー城』のライトノベルのキャラ性に近い登場人物といい。(あ。でも『ファウスト』のイベントで本人に会った印象ではライトノベル読まなそうだったな)

中途半端といえば中途半端ですが、ライトノベル推理小説の橋渡しというか、読者の移行期間を埋める作品として需要が見込まれるのではないかと。というかもっと売れていいと思うんですよ、北山さんは。たしかに『ファウスト』で名前出るまで知りませんでしたが、知ってしまえばなんで売れていないのか謎でしょうがない。本屋で初版以外見たことないよ。ユヤタンですら今ではもうかなり増刷されてるのに。あ、ちなみに本の奥付(出版日とか書いてあるところ)の隣のページがネタバレの画像なので決して見ないでください。

固定ファンつきそうなんだけどなぁ。俺なんて積本ほっぽり出して3作目読み出しちゃったし。
Amazonのリンク先で原題が『天使の例外』だと知る。あー、良いタイトルだ。読み終わった後では感慨深い

★★★★★★★★★☆

『もしあかりがなかったら』
 入瀬はペンを持った手を一度止めた。
『もしせかいじゅうがまっくらになったら
 ないだくんはどうやってこれをよむの?
 どうやってわたしとはなしをする?』 (P39)

∩(・∀・)∩るー
いや、探偵の无多(ないだ)が相方の入瀬(いるせ)のことを「るー」という愛称で呼ぶのでどうしても東鳩2を思い出してしまう、というか最初に見つけたときに思わず吹き出してしまったよ。それに3×3EYES好きとしては「无」って「うー」って読むじゃないか、うー。いや、出版は2年前なのでもちろんわかってる。わかってるんだ。でも言わずにはいられなかったんだ(ぉ

でも3作目にして作者がキャラ性に力を入れてきた感じはする。つーか、るー萌え。北山作品ではぶっちぎり。言葉を喋れないのでメモ帳とスケッチブックを持っているがスケッチブックは恥ずかしいから使わないとか『もしせかいじゅうがまっくらになったら どうやってわたしとはなしをする?』とか『くっつこう さむい』とか最後のあれとか!

あと一人称が観月で金のことしか考えない探偵・観月と、誰かに触れていないとうまく会話できず、会話も倒置法になる山根さんもキャラが立ってましたね。


んで本書。

読み終わった直後の感想 「……は?」
数秒考えた後の感想 「やられた!」

いや、もう見事だ。見事に騙された。これは気づかなかったらあまりの終わり方に評価が最悪になりそう。逆に再読して伏線に気づければ評価がかなり高そう。北山スレで見かけた単語だが”心理結界”とでも言える妙技。


そして途中探偵の口を借りて作者が物理トリックについて語る場面はとても良かった。つーか感動すらした。

まぁ、後味は悪い。キャラが魅力的だけより一層。まあアリスが十一人委員会である以上完全に勝利してもらわないと困るんだけど。ホント『アリス・ミラー』のそれぞれの探偵主役にした短編出ないかな。无多と入瀬、観月、山根あたりで

「陽だまりの楽園」さんの感想で登場人物の名前ネタが。
窓端(マッドハッター、きちがい帽子屋)、観月(三月兎)、山根(ヤマネ)、海上(うみがみ→亀もどき)、鷲羽(グリフォン?)、堂戸(ドードー鳥)、以上『不思議の国』。古加持(こかじ→並べ替えで 小鹿?)、ルディ(トイードルディ)、以上『鏡の国』。无多(ないだ→ダイナ(アリスの飼い猫))、入瀬(イルセ←アリスから1文字ずらし)、白角(一角獣)。
あー、なるほど。ほとんど気づかなかった_| ̄|○
それにしても入瀬の名前ネタが好きだな。

★★★★★★★★☆☆

「人形を作ろうとすると、必ず何処か、自分に似た形になってしまうと聞きます。それは、参考にしやすい一番身近な人間が自分であるからに違いありません」頼科はメモ帳を閉じて、ポケットにしまった。「では、完成した人形の、自分に似ていない部分というのは、一体何なのでしょうね」
 もう調べることもないので、頼科は部屋を出ることにした。
「人間と人形の違いって、何かしら」
 藍が誰ともなしに尋ねる。
「人形は死ぬのが怖くないのではなくて?」二が云う。「死との距離があらゆる人間を人間たらしめる。そうでしょう? 悠お姉様」 (P100)

さすが物理の北山だぜ!
北山スレでも言われていたけどこの『物理の北山』という呼称自体がトリックだよなぁ(笑)

というわけで本作の肝も叙述トリック。素晴らしい。1回読み終わって、違和感を感じたところを読み返すとたしかに矛盾のない文章なんだよね。

こういうのは私なんかは素直にすげーって思うんだけど、反則というか詭弁のように思ってしまう人は駄目だろうね(そういう人は叙述トリック自体が駄目っぽいけど)。

んで、今作の最萌えキャラは『死』と、ギロチンその他の拷問道具の知識が豊富な”にーちゃん(二)”ですな。まあ例によってすぐ死んだけど(;つД`) 。それにしても「一」「二」「三」「四」「五」という五人の名前は誰しも考えつつやらないようなネタだと思うんだがそれをやってくるとは……北山恐るべし。


参考)現代作家ガイド・北山 猛邦
そうか、北山はGA四期から参加の烏丸ちとせか……不覚にもワロタ。
つーか『アリス・ミラー城』が一番評価高いのか。たしかに古参の推理読者のツボに入りそうではあるが(笑) ちなみに私はやっぱり『瑠璃城』が好きですね。『Ever17』のような最後に世界観をひっくり返すようなどんでん返しが好きなので。

それにしても……みんな北山読もうよ!
本屋でもホント初版しか見ないよ!なんで売れないのかなぁ。タイトルが古くさいから?(ぉ
一冊読んで貰えれば嵌る作家だと思うんだけどなぁ。その一冊に手が届きにくいのかしら。