『E.a.G.』(電撃文庫)

我が家のお稲荷さま。』の柴村仁の近未来系サスペンス。

うーん……

元々、結構売れてるらしい『お稲荷さま。』も1巻で切った人間なので「合わないかも」とは思っていたんですがやっぱり合わなかった。「カラスを肩に乗せた登校拒否少女(お嬢様学校)」と「陰気で不器用なスラムの青年」、そして退廃的な街で起こる謎の吸血鬼騒ぎと、死体による殺人――と、設定で言えばお好みストレートな感じだったんですが……

スラムを舞台に台詞の中にも散々「治安が悪い」という言葉が出てきているのに全くそんな印象を受けない。悪人のたまり場と言いながらチンピラ程度でやることと言えばちゃちな暴力程度。なんだかなぁ、子供向けのおもちゃというか、鍍金というか、「スラム」って言葉が使いたいだけちゃうんかという感じでしかなくて、吐き気がするほど下衆な人間の屑とか、理不尽で圧倒的な暴力を受けて磨耗していく精神とか、そういったものが全然ない。ちょっと前に読んだ海猫沢めろん『零式』のスラムっぷりがあまりに圧倒的だったというせいもあってよりチャチに見えてしまった。

キャラクターも人格が見えない「行動する駒」でしかないし、イラストもあるにはあるけれど誰が誰かわからないので補助とはなりえない。ストーリー描写にしても、作中人物が知っている前提で会話している内容(勢力図とか重要人物の名前)が読者に説明されるのはやっと100Pを超えたあたりとかなり不親切。同じ「紅帝」という漢字で「コウテイ」「ホンデイ」のルビが違うだけで組織そのものが対立組織とかさっさと説明してくれないとわけわけんねぇよ。その上その「情報隠し」が何か演出として役に立っているかといえば「読者を混乱させる」以上の効果は何もないように思える。

バトルも数ページで終了。元々バトルシーンが好きなわけじゃないんですが、そんな私でもこれは短すぎだろ、と思わずにはいられない。あと(※重大ネタバレ)推理小説ではないとは言え、”犯人”が”語り部(あとがきによれば主人公ですらある)”はノックスの十戒違反に思えるので、「反則」とまでは言わないけれどフェアじゃない感じを受けるし、なんか反感を覚える。

E.a.G.
E.a.G.
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.18
柴村 仁〔著〕
メディアワークス (2007.2)
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