『記憶の果て』(講談社ノベルス)

読もう読もうと思っていた浦賀和宏にやっと手を出してみるテスト。

いやぁ、知人に「浦賀さんは…面白くないわけじゃないんだけど良い意味で三流っていうか…いや私は好きなんだけど人には別に薦めないって言うか…」と気にはなるけどすぐ読む気にはならない微妙なコメントをされたため色々気になりつつ後回しにされた作家・浦賀和宏

ですが最近書店に行くとやたら松浦純菜シリーズが私の視界に入る気がして気になる病が再燃。結果、デビュー作(安藤直樹シリーズ)から読んでみたのですよ。

うん、正しくメフィスト賞の系譜。

主軸は推理(≒謎)モノながら、横道に逸れて衒学な知識が披露され、反倫理的なエピソードがあり、微妙に後味の悪い結末を迎えるという、相変わらず人を選ぶお決まりのパターン。だがそれがいい。というか本書が第5回(1998年)の受賞作なので現在第36回を数えるメフィスト賞のカラーを決めたのは本作と言うのが正解かもしれない。

あらすじは――大学入学前の春休みを怠惰に過ごす安藤直樹だったが突然脳科学者だった父親が謎の自殺。父親の部屋に残されたコンピューターの真っ暗な画面で妹(?)・安藤裕子と名乗る人工知能(?)と文字のみの交流をするうちに父と妹、そして自らの謎に近づき――という感じ。「事件」という括りでの推理モノではないながら、「謎」を明かしていくというスタンスは推理モノ。ただ一部わざと明確な「解答」を出していないのでちょっともにょる人もいるかも。

てっきり1作モノだと思ってたらWikipediaみたらシリーズだったっぽいので下手なことは言えないのですがこの安藤裕子っていう存在は色々ネタにできそう(=共通認識としてネタを振れそう)ですね。昔何処かの「人工知能」キャラ論(?)で名前を見たような気がしますし。

それにしても安藤裕子。「人工知能」と「妹」なんてそれだけで客を呼べるワードですよ。おまけに(※重度ネタばれ→)妹と見せかけて姉、と見せかけて母親、と見せかけて双子の妹ですからね。なんて最強属性だ(笑)

1998年の作品なので人工知能の考え方とかコンピューターのスペックとか「うわ、古」と思うところもありますがそれはそれ時代を差し引いて読みましょう。反面、小説のジャンル論が今も通用しそうだったりと逆に面白い所も。後は若者の葛藤というか、後ろ向きな情動というか、そこらへんが嫌う人は嫌うかなーっという感じですがメフィスト賞に手を出そうと思えるような人ならたぶん大丈夫じゃないかなー、と(笑)


いやぁ、他人の話を聞くぶんにはもっと「斬新だけど下手(お粗末)」なのかなぁ、と勝手に思っていたのですがなかなか読み応えのあるストーリーで、満足の1冊でした。これは結構作家として気に入った作家さんかも。それなりに本の数が出ちゃってるのですがそのうち全作読もうと思います。

記憶の果て
記憶の果て
posted with 簡単リンクくん at 2007. 4.24
浦賀 和宏著
講談社 (1998.2)
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