『暗闇にヤギを探して 3』(MF文庫J)P100

「大気圏脱出前のロケットはまだ地球の重力下にあるから、燃料を使って推進力を得なきゃいけないわけ。そりゃもうものすごいエネルギーが必要なわけよ。自分のことずっと好きでいて、とかずっと自分のそばにいて、っていうのは、そういうのと同じ凄まじいエネルギーを要求しているのよ。そりゃ恋愛の初期状態ならそういうエネルギーが必要かもしれないけど、私と父さんぐらいになったら、もう人工衛星みたいなもんよ。文字通り軌道に乗っているから、あとは重力や遠心力でなんとでもなるのよ」
「でも、人工衛星って地球から見えないじゃない? そういうのって不安にならないの? 本当にちゃんと軌道に乗っているか心配になったりしないの?」
「馬鹿ね。そういう見えない相手を信じられる状態を『愛してる』っていうんじゃない」