『正義のミカタ―I’m a loser』(双葉社)

個人的にかなり大好きな作家・本多孝好の待望の新作。前作『真夜中の五分前』からもう2年半ですよ。瀟洒な会話と心打つ独白、全体に漂う切なさと心に残る読後感が印象的な作家さんです。オススメは『FINE DAYS』。上下2冊を買う購買力があるなら『真夜中の五分前』。

さて、本作は高校時代に悲惨ないじめを受けていた主人公が一念発起して大学へ進学。さあ花の大学生だ、というところでいじめの主犯・畠田に出会ってしまう。またいじめられっこの生活に逆戻りかと思われたその時、元ボクサーのクラスメイトが救ってくれる。彼につれられていった先は「正義の味方研究部」――大学内の揉め事を解決する少数精鋭の正義の味方たちだった――

いじめを受けた人の心の傷、社会人となっても競争社会であぶれるであろう不安と諦め、格差と平等の言葉に象徴される社会の閉塞感――そんな諸々を言葉に乗せながら主人公たちの大学生活は紡がれていきます。いやぁ、流石に巧い。

ただ序盤の掴みは物凄く面白かったんですが、後半に失速、というか美味しそうな料理を脇に置いてしまったまま結末になってしまった感じ。「あっれぇ、面白い中身があったはずなのに!?」と真ん中三分の一を抜き取られてしまった気分というか。過去の作品と比べると見劣りがしてしまいますが、それでもやっぱり本多孝好。後で再読しよう。

正義のミカタ
正義のミカタ
posted with 簡単リンクくん at 2007. 6. 6
本多 孝好著
双葉社 (2007.5)
通常24時間以内に発送します。

販促のため本多孝好名台詞集を抜粋。

『Fine days―恋愛小説』(祥伝社
オンライン書店ビーケーワン:FINE DAYS

「あのな、どうして自分が生きているのかなんて、そんなの悩みじゃない。悩みっていえば、解決しなきゃならないことに思える。けど、俺が思うにそんなのはもう高尚な哲学だ。哲学だから、答えなんてない。一生かかったって、答えなんてきっと見つからない。そんな風に悩まない奴も人間として信用できないけど、それに対して答えを見つけたなんていう奴とも俺は友達になりたくない。きっと水晶玉とか壺とかを売りつけられるのがオチだ。だから、答えなんてないままに悩んでいればそれでいい、と俺は思う」
「悩んだまま生き続けるの? 一生?」
「人間は日々強くなれるし、賢くなれる。今よりずっと強くなって、賢くなれば、答えは見つからなくても、何とか折り合いをつけながら生きていられると思う」(P65/FINE DAYS)

本多孝好『MOMENT』(集英社
オンライン書店ビーケーワン:MOMENT

「どこへ逃げようと一緒じゃねえのか? お前が折り合えないのは、この時代でも今の社会でもなくてお前自身だろ? 世界にはばたこうが、宇宙へ飛んでいこうが、お前はお前だ。そう簡単に折り合えるってもんでもないだろう」
 つまらなそうに呟いた森野の顔を僕は眺めた。
「何だよ」と森野は言った。「怒ったか?」
「驚いたんだよ」と僕は言った。「ずっとそういう風に見てたのか?」
「どこか間違ってるか?」
「どこも間違ってないから驚いてるんじゃないか。こっちはそれに気づくまでに二十二年もかかったのに。知ってるなら教えてくれればよかった」(P245)

「でも、人間が生きていくって、そういうことでしょう? その人が生きていなければ、僕だってその人と知り合うこともなかったし、その人と喋ることもなかったし、その人に好意的な感情を持つこともなかった。生きていれば、自分の知らないところで、自分に対する好意とか悪意とか善意とか害意とか、そういうものが生まれていく。だたら、僕の好意的な感情について、その人が生きていたことにも責任の一端はある。責任の話をするのなら、そっちのほうでしょう。自分の勝手な事情で、自分で勝手に死にたいのなら、自分が関わったすべての人の同意を取り付けるべきです」(P306)