『オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog』(角川スニーカー文庫)

「別に……」うつむく――とっくに吸い終わっていた吸殻を灰皿に放り込む。「なんにもねーんだよ……あたしには、人に胸張って説明できることなんて……」(中略)
「ちくしょうッ、どうやったら消せるってんだ。あんたの言う、臭い劣等感ってやつをッ!」(中略)
「自分のふがいなさを他人のせいにするな。人生はこんなものだと決めつけるな。心に抱いたものを信じて前へ進み続けろ(キープ・ムービング・フォワード)。どれほどの挫折の中でも――真っ直ぐ前へ(ストレート・フォワード)。お前が誰よりも胸を張って自慢できる、その大人顔負けのガッツがあれば可能なことだ」
「そんなの……くそっ。そんなの……あたしはただ、思い切りぶん殴れるものが欲しいだけだよッ。あんたみたいに上等なごたくなんて並べられねーんだよッ」
「それが仕事なら迷わず務めろ、戦いの犬(ウォー・ドッグ)。お前が何者か、そいつが教えてくれるまでな。そして、ひとまずこの事件を乗り切った後で、受験勉強にいそしむのも悪くない。俺も教科書を買って家に帰り、取り損ねた情報工学の資格を取るとしよう」(P322)