『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫)

持病「流行ると読みたくないでござる」病が発病してしまったので読んでなかった本作。映画化もされ、もうすぐTVドラマも開始ってますます売れてますなぁ……なのにミーちゃんよろしくなんでこんなタイミングで読んだかというと舞風さんとこで「二つ名持ちの異能すれすれを持つ医者がいっぱいな”中ニ病棟”」「これなんてラノベ?」な話だと知って俄然読みたくなってしまったから。で、感想。

これなんてラノベ

ジャンル的には医療ミステリだけど、このキャラの立ちっぷり、読みやすさはラノベに通じてる気がする。大人向けのラノベというか、ラノベの心を忘れない一般小説というか。なのでこの作品、ラノベラーは結構気に入る気がします。それでいて作者は現在も医者なのでストーリーの説得力・リアリティが違います。

さてあらすじ。

東城大学病院にて院内政治に疎い”昼行灯”、「不定愁訴外来」通称「愚痴外来」という閑職にいる田口公平講師は恩師である高階病院長に突然呼び出される。なんでも病院が誇る最高の心臓手術のチーム”チーム・バチスタ”の手術が3連続で術中死しているという。60%というバチスタ手術に今まで成功率100%という異常を叩き出していた”グロリアス・セブン(栄光の七人)”とも呼ばれる優秀なスタッフたちに明確な失敗もないのに何故か連続する術中死。リーダーであり執刀医の”ミスター・パーフェクト”桐生助教授は高階病院長にリスクマネジメント委員会の招集を依頼。しかし院内政治のゴタゴタで高階病院長は田口に事前調査を命じたという裏。

狸の高階病院長に言いくるめられ田口はしぶしぶスタッフに聞き込みを開始するのだがどうにもかんばしくない。そして田口が「素人の目からみて判断せよ」と立ち会った手術で遂に4例目の術中死が起こってしまう。何故……

消沈の田口が愚痴外来に戻るとそこには高級そうなスーツを下品に着こなしたゴキブリみたいな男がいた。厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長の白鳥圭輔。論理的に相手を追い詰め人の心が感じられない下種っぷりからついたあだ名は”ロジカル・モンスター”。彼の通った後はぺんぺん草も生えないことから”火喰い鳥”とも呼ばれている。高階病院長のツテから呼び出された彼は独自の会話理論を駆使し、スタッフを追い詰めていく。田口&白鳥コンビが突き止めた4件の術中死の真相とは――?


一般的な探偵が常人を超えた”直観力”でもって犯人のトリックを暴くという点を売りにしているのに対して本作の探偵白鳥の売りは”会話力”。白鳥は聞き取り調査を「パッシヴ・フェーズ」と「アクティヴ・フェーズ」に分け、かつそれぞれのフェーズでの探偵と容疑者の行動を名前をつけて体系立てている。これが実におもしろい。文系科目で理系が苦手とする”感情””会話”という部分を理系的にカテゴライズして体系にまとめるなんてなんて理系男子にとってわくわくする展開……ッ!

相手の話を肯定的に聞く「パッシヴ・フェーズ」。ちなみに田口は愚痴外来での仕事柄これが(本人自覚なしに)得意だそう。この時探偵は「セルフポートレート(自画像)・ヒアリング」をして容疑者のイメージを固めます。田口は元々初対面の人に動物のイメージを当てはめて”見立て”る癖がありました。

この時に容疑者が消極的な場合、守備的になる理由によって二種類の行動にカテゴライズされます。守備的になる理由が秘密を守るための場合は「スネイル(かたつむり)・トーク」、苦悩が原因なら「シーアネモネ(いそぎんちゃく)・トーク」。ちなみに容疑者が積極果敢なら「オフェンシヴ・トーク」。

「パッシヴ・フェーズ」が一通り終了すると次は「アクティヴ・フェーズ」に移ります。相手の触れてほしくないところに遠慮容赦なく切り込みその反応から分析します。下種な白鳥が大得意なフェーズ。

このフェーズに探偵が行うことは「オフェンシヴ・ヒヤリング」。容疑者の反応は「ディフェンシヴ・トーク」。

アクティヴ・フェーズで容疑者のイメージ(見立て)がパッシヴ・フェーズから変化する場合があり、それは「相転換」と呼ばれます。アクティヴ・フェーズのほうが本質に近く、未熟で独善的な性格だとパッシヴ・アクティヴ間で変化が出やすいそうな。


閑話休題。読んだ動機が動機だったのでこの文章ではわざと二つ名とか技名(違)のように中ニ的な要素をあえて多めに書いてみましたが、本書は実はあんまり「くせぇ!中ニの匂いがぷんぷんするぜぇー!」って感じではありません。むしろそれを期待していた自分は肩透かしを食らったような?(悪い意味で思ってたので肩透かしをくらって結果的には嬉しかったんですが) 二つ名は登場人物を思い出すのに役立つガジェットくらいの意味で使われていて、中ニが大好きな「あ、あれは”火喰い鳥”! 奴の必殺技”オフェンシヴ・ヒヤリング”はあの”グロリアス・セヴン”すら凌駕すると言うッ!」なトクベツな扱いではなかったからかも。まあ個人的な好みであんまり中ニすぎると苦手なのでこのくらいの「ちょいカコツケ」具合がちょうど好きな感じです。

全体通して結構おもしろかったし、続きも読みたい!って思いました。次巻「ナイチンゲールの沈黙」も買ってすぐに読み出しちゃったし。(よくよく考えるとこの人新人だったのよね……この出来で新人とかぱねぇなぁ) ただ、3作目の「ジェネラル・ルージュの凱旋」はまだ文庫落ちしてないんだよなぁ。面白いし、好きなんだけどハードカヴァー新刊を買うほどでなく、文庫落ちを待って追いかけてもいいかも?

と思っていたのだけれど。だけれども! 次巻「ナイチンゲールの沈黙」がかなり好みで、さらにその解説の文章を読んで俄然全部(現在10作)揃えたくなってきました。その解説っていうのは↓

・他の作品とも連動しており全体通して「桜宮サーガ」になっている。(桜宮って街の名前ね)
・他の作品は今作で脇役(だけど魅力的)なあの人が主人公!
・今巻でのあの人たちが再登場してるらしい!
・2年半で10作…医者と兼業作家なのに。
・「バチスタ」を書いた理由が熱い。

バチスタを書いた理由っていうのがブルーバックス「死因不明社会」にも書かれているのだがこんな感じ→。某研究機関の病理医である作者が日本の解剖率が2%でしかも杜撰に行われている(実は死因は間違っているかもしれない!)現場を憂慮し、打開策として「オートプシー・イメージング(Ai)」(死亡時画像診断)を進言。これはMRIやCTを用いて死体を傷つけずに事前簡易的に診断しようというもの。しかし進言に対して行政は臨床医や市民からの要望はないとけんもほろろ。(要望はないというか、ルール変えるの面倒だし、職が危うくなるかもしれないので大反対だろうね)どうしようもなくなった作者はそこでふと思いつき、オートプシー・イメージングを事件解決の要にすえたミステリ「チーム・バチスタの栄光」を書いてみた。とのこと。

ちなみに「ナイチンゲール」の作中で白鳥自身がこの「オートプシー・イメージング」を一般化しようとして行政や解剖医やら各種権力から総攻撃にあっている。白鳥は東城病院を「オートプシー・イメージング」のモデル病院としてAiセンターを作ろうとしているが自身すら「夢物語」と言ってしまっている。

ところがところが。この問題が小説を通じて一般の人の知るところになると厚生労働省日本医師会が重い腰をあげて導入に向けて動き出し、昨年には千葉大にAiセンターが設立されたとのこと。すげぇ。(解説に書かれている小説の貢献度の真偽はわからんけど)

この意気に惚れたのと、現在の医療の問題を切り取っているだけに文庫になるまで2年待っちゃうと時差が出ちゃうんだろうなー、と思いリアルタイムで追いかけたいなーと思った次第。それにここまで速筆だと10作”しか”出ていない今が追いかけやすい時期に違いない。しかしこうなると頭2作を文庫で買ってしまったことが憎いなぁ……。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)

チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600)