桜庭一樹『ブルースカイ』(ハヤカワ文庫)P255

「要するにさ、少女というのは近代の産物なんだよ。(中略)」
「近代以前には、人々はこども時代からとつぜん大人になったんだ。なぜなら彼らには生活があり、働かなくてはならなかった。結婚や出産もずいぶん早い時期から始まったろう? ぼくたちがロースクールに通っているような年頃でだ。彼女たちはなんの抵抗もモラトリアムもなく、ある日いきなり大人になり、日々の糧のために働き、せっせと子孫をつくり、やがて死んでいった。それが、近代になって学生である期間が伸び、人生において、こどもでも大人でもない不思議な時間が生まれた。そこで、幼女でも大人の女でもない”少女”という名のクリーチャーが生まれた。(中略)」
「近代とはつまり彼女たちの時代だった。少女という名のクリーチャーたちがカルチャーを席巻した。アート、ファッション、物語。消費のモンスターたち。彼女たちは消費者として快楽を追求するだけではなく、自ら商品になることを欲するほどに壊れていった。(中略)」
「”少女”はぼくたちの宇宙からどんどん遠ざかっている。高速スピードで、百億光年の彼方まで。きっと誰も彼女たちの集団には追いつけない。増えすぎたネズミの大群が海に向かうのを、止める方法がないように。(後略)」