浅倉卓弥『四日間の奇蹟』(宝島文庫)

★★★★★★★★★☆

「新人賞の役目とは原石を見つけること。たとえ破綻や疵があったとしても可能性を秘めた才能を世に出すことだろう!」と昨今の作品の完成度を重視し、減点主義の新人賞では最終候補にすら残れない新人を発掘しよう、と作られた『このミステリーがすごい!』大賞。本選考委員に作家ではなく全員が書評家、原石の魅力を感じさせる作品にはすべて選票がつく、大賞賞金1200万円と国内最大級、というのが特徴である。

で、今作はその第1回大賞受賞作。当時(2003年1月)気にしてはいたんですが読まないうちに映画になったり100万部突破したりと一層読む気失っていたわけですが(笑)、偶然サイン本を見つけてしまったのでつい買ってしまいました。

序章だけで気づく才能というのがあります。序盤を読んだだけで「うわーこの作品いい作品だ。間違いない。後半がどんなに駄目でも上位20%以下には絶対ならねぇ」と確信できる作品。本作がこれ。解説に”ピアニストの夢を絶たれた青年と脳に障害を負った少女が出会い、青年の胸に去来する複雑な感情の蹉跌を経て、やがて二人が寄り添うように生きはじめる過程を静謐かつ克明に描く作者の筆致には、もはや唸る他ない。まるで行間から旋律が聴こえてきそうなピアノの演奏シーンを含め、この作家の完成された文章力は特筆に価する。”とあるのですがまさにその通り。素晴らしい文章力ですよ。

で、主人公はピアニストの夢を絶たれた青年と脳に障害を負った少女なわけですよ。15歳ですが精神年齢は3,4歳、サヴァン症候群により”聴いた曲を完璧に再現できる”というピアノの才能を持つ千織(ちおり)という少女。人見知りが激しく青年のみに気を許し「敬パパッ!」と慕う。215氏の話を読んで以来、私はこういう設定がえらいツボでしてね。

ただ、中盤以降、作品のメインである”奇蹟”は正直イマイチ。使い古されて食傷気味ですらある話だし……素材が良いのだからもうちょっと別の出来事でも良かったんじゃないかなぁ、と残念。きっと期待値が高すぎてそれに比べて残念といった程度だとは思うんですが。ちなみにミステリー要素は殆どなく、「伏線」もそれほどのものでもないと思いました。ただ作者の文章力は確かで、人物も魅力的に描けています。この作者はそのうちもっと凄いものを書いてくれそう。

そうそう、作中で用いられた曲をまとめたCDブックが出ているそうなのでそれを購入してみたいです。映画の出来はどうだったんだろうなぁ。映像としてはあまり映えないような気がしますけど。あと個人的意見ですが最近の”吉岡秀隆を使えば純朴な感動モノになるだろう”みたいな風潮があんまり好きじゃないんですよね(笑)