『イヴは夜明けに微笑んで』(富士見ファンタジア文庫)

うおおおおおおおおおおおおおおお

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ど真ん中クリティカル。超ストライク。

いやもうツボ中のツボですよ。大好きだこういうセツナサオーラが漂ってる綺麗な話。

物語の主軸は<名詠>(めいえい)と呼ばれる技能。ありていに言ってしまえば「召喚」なのだけれど、五色の属性を持ち、名詠の際に<賛来歌>(オラトリオ)と呼ばれる賛美歌を詠い、植物や動物、幻獣を喚び出す。よくあるファンタジーの「召喚」と違って攻撃的なニュアンスがなく、どこまでも詩的で繊細。作者造語(?)セラフェノ音語(不可触言語)による<賛来歌>も綺麗。

プロローグは1人の少女と1人の少年。少女は五色しかないとされる名詠において新しい「夜色名詠」を生み出そうとしていた。周りに嘲笑されようとも一人頑なに。命の短い自分が最後に何かを残すために。孤独だった少女に黄昏の窓辺でクラスメイトの少年は語りかける。勝負をしよう、と。僕が五色すべてを扱える虹色名詠士になるのと、君が夜色名詠を完成させて僕に見せるのどっちが先か勝負だと。

そして十年ほどが経ち、少年は少女とは別の道を歩み、虹色を操る天才として名を馳せる。少女は少年と別れ、世に名を残すことなくこの世を去る。自らの息子に夜色名詠、そして少年との「約束」を託して。物語は少女の息子が、少年と少女がかつて過ごした学び舎へ訪れるところから始まる――


物語の主人公は少女イブマリー・イェレミーアスの息子ネイト(13歳)であり、ヒロインは転校初日に出会ったクラスメイトの少女クルーエル(16歳)(愛称クルル)なんです、あくまで。ですが個人的にプロローグの、10年前の、2人が良すぎる。特に少年だったカインツは少女の死を知らずずっと少女の身を案じて待ち続けているわけですよ、今でも。でも彼女はもう亡くなっているわけですよ。この部分のセツナサが現代編(本編)のベースとなって物語に引き込まれる。

ちなみに主人公13歳は飛び級してヒロインたち16歳のクラスへ。やはり時代はショタなのだろうか。ちょっと頼りないけど根が優しく真面目に夢に向かうショタと、それを保護者のような気持ちで放っておけないけど少年の真っ直ぐさに感化されて自分の立ち位置を考え始める年上の少女。少女の友人を含めて3人のコミュニケーションは微笑ましい。

(重大ネタバレ)イブマリーが復活するのはこの気に入った雰囲気をやや壊すものだったのでちょっと残念でしたが、登場人物たちは救われたのでまあいいかな、と。あと前述のように詩的な召喚を魅力に感じていただけに(バトルはしょうがないにしても)ゲーティアはちょっと萎えたかな。。←のようなちょっと惜しい点はあるものの作品世界が気に入って一気に読めました。ホントちょっと読むだけのつもりだったのに徹夜して読みきってるとかおかしいよね。

イラストは『文学少女』シリーズの竹岡美穂。細い繊細な線が作品と実にマッチ。ヒロインのアップは魅力的に(特に序盤P13で”掴み”、ラストのP297で”感動させる”。王道ですが良い絵)、複数の人間がいる挿絵は表情豊かに人物たちの関係性が伺える。また画一的なイラストでなく、様々な視点からレイアウトできる力量も評価。

年明け早々ですが、2007年上半期の新人賞ノミネート確定

イヴは夜明けに微笑んで
細音 啓著
富士見書房 (2007.1)
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