『声で魅せてよベイビー』

理系男子の恋愛青春モノ。

この食い合わせの悪さを見事に描ききった才能に感服。どう見たってやりにくいですよ、恋愛を論理的に把握したり、相手の機嫌を損ねようとも正論をぶっちゃう主人公の少年の恋愛話なんて。読者としてもこの少年の考え方と行動が理解できる人と全く理解できない人に分かれそう。だが、理解できる側の人間にとってはクリティカル。

主人公はハッカーであることの矜持を持った少年。ハックの先輩でもある”おっちゃん”のOS技術同人誌を買うためにサンシャインを訪れるが、そのブースはやおい向け(おっちゃんは合同サークルだったので)。そこで1年年上の腐女子の”声優の卵”を紹介される。「演技に恋愛感情がこもっていない」と指摘された彼女はハッカー少年を彼氏役にエチュード(即興で演じる稽古)をしようと勝手に決めてしまって――


いやはやこれはアタリですよ! 公式サイトで序盤を立ち読みした時は”池袋サンシャインの同人誌即売会でOS解説書を買おうとしたら腐女子のヒロインと出会う”というプロローグのエッジっぷりのみで特攻したのですが予想外のアタリ。イラストは『わたしたちの田村くん』『とらドラ!』のヤス氏なのでその読者が流れてるかな、と予想しつつこの2シリーズのファンの好みと結構合ってるような気がします。特に主人公の変人でありながら芯の通った心地よさが。

ハッカー少年という記号はわりとライトノベルではありふれていながら「なんとなくすげぇ」の味付けで止まっているのがライトノベル。だが、そこをちゃんと地に足の着いたハッキングを披露してくれたのも好印象。珍しくちゃんと技術的だな、と思ったら作者はUNIX。こういうところで作品の説得力が段違いになるよなー。

あと現実的なお話ながら唯一ファンタジーな小さな要素があるんですが、その要素が後半ちゃんと「必要」になり、お話の重要なところに収まるのが個人的に好きなところです。

「恋愛」と「夢」なんていう青臭いものを真正面から描くのって考えてみればライトノベルではあまりないのかも。あとがきによると続編の構想はあるみたいだし、これはすごく楽しみ。人は選んじゃうかもしれないけれど私はこの作品は全力で応援したいな。

声で魅せてよベイビー
木本 雅彦著
エンターブレイン (2007.2)
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