『ミミズクと夜の王』(電撃文庫)

とても綺麗で、優しい童話。

村人に奴隷として虐げられ続けた白痴の少女ミミズクは深い森の奥で「魔物の王」の青年と出会い、自分を食べて欲しいと望む。その望みが叶えられないまま、自らの境遇を「不幸」とすらわからない純朴な少女は孤高な夜の王、そして賢者じみた魔物クロと交流し幸福の形を掴みかける。しかし「魔王に捕られ従属させられている少女」の噂が広まり、遂に騎士団が魔王征伐に乗り出すことになり――

ホント綺麗な話。その一言。読み終えて暗い染みが心の何処にも見つからない。とはいえ底抜けに明るいわけではなく、むしろ全体を覆う雰囲気は後の悲劇を予感させ続けるもの。登場人物たち全員がとても優しい、心根が綺麗な人ばかりで読んでいて心地良い。聖人君子ではないけれど、芯の強さと正しさ、ユーモアを持っている人々の心情が胸を打つ(P228が好き)。

電撃小説大賞<大賞>はむべなるかな。こいつぁ大賞だわ。帯の推薦人は有川浩。この新人はハードカバー行きだろうし、この方向性で存分に戦える才能を持っていると思うのでこれからも期待。確実なファンを掴んでいけそう。あ、あとあとがきが良い。面白いあとがきを書ける人は何人かいるけど、感動できるあとがきは稀有。

誰かにプレゼントするのに良さそうな一冊。多くの人にオススメ。

ミミズクと夜の王
紅玉 いづき〔著〕
メディアワークス (2007.2)
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