『僕僕先生』(新潮社)

前フリとしては僕僕先生がたいへんかわいらしいのでライトノベル読みの人も読めばいいのにという記事からまいじゃー推進委員会!さんと好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!!さんが読んでいた第18回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。


帯には「(辛辣な)美少女仙人と(弱気な)ニート青年が、天地陰陽をひとっ飛び!」「美少女仙人に弟子入り修行?!」の文字。

舞台は中国・唐の時代。玄宗皇帝(楊貴妃に溺れる前)の治世。西暦720〜730年あたりかな。父親が財を持っていたので働く必要なんてないじゃん、とニート生活を送る青年”王弁”にある日、役所を引退してからは不老長寿を求めて道術にかぶれた父親”王滔”が、最近山に住んでいる仙人様に貢物を持って行け、と言われる。しぶしぶ向かった王弁が出逢ったのは性格は長寿を生きた仙人然としているが姿は美少女の仙人”僕僕”(名前なんて必要ないよ、とばかりに)。

父親の熱心な懇願もあって、僕僕先生は王弁を弟子(ということ)にして、王弁の屋敷を訪れはじめる。だが、その噂が官吏にまで届き、僕僕先生はその土地を離れなくてはならなくなってしまう。かくして美少女仙人とニート青年の不思議な旅が始まる――


いやぁ、僕僕先生が仙人様なので王弁君の思慕や葛藤なんてお見通しなのにその上で脈ありな思わせぶりな行動をしたりしてからかう感じがいいですね。『狼と香辛料』のホロみたいな感じ。王弁君はロレンスより若い分スレてないけど。

そういえばやたら「ニート青年」って書かれるけど『NHKにようこそ!』の佐藤君みたいなホント根っからのダメ人間じゃなく、単に現在働いてないだけというか、ポテンシャルは高そうというか、高等遊民っぽいというか。まあ佐藤君レベルになると「へたれUZEEEEEE!!!」となってしまうので王弁君はこのままでいいのですが、「ニートから脱却!」に意味を持たせようというならちょっとその前段階が足りない感じ。

メインストーリーは「王弁君から見た僕僕先生」なので、全体の縦糸というか、でかい話はなし。旅をする中で仙人の世界の幻想的な出来事に触れたり、皇帝や他の仙人と出逢ったりする話が殆ど。あ、あと僕僕先生の剣舞を見たり、一緒に温泉に入って悶々としたりとかそーいう話(ぉ

著者略歴に2年間の北京留学や、「これまで日本ではあまり知られていなかった歴史の名場面や英雄豪傑を物語にのせて紹介したいと志に燃える日々」といった文章があるだけあって中国史への造詣は深そう。実際本作にもそれは遺憾なく発揮されているのだけれど、どうにも僕僕先生パートとは乖離した印象。皇帝に謁見するまでは必要だったと思うんですが、それ以後は必要のない固有名詞を載せたりやややりすぎな感じ(まあやりたいんだろうけど)。ただ、まぁ「作者の知識の深さ」というのは作品の”深み”が増すので好きですよ。


確かにラノベ読みには違和感なく読める話(ただ文章量の割にちょっと高いのがネック)。それより一般人からライトノベル方面に手を出しやすくなりそうな本だなぁ、と思いました。その点でもうちょっと一般人向けにキャッチコピー書いてもよかったのに、とかなんとか。


子供から(?)大人まで、一般人からオタクまで、女性から男性まで、と幅広く受け入れられそうなファンタジー。特に、頭の良い美少女に手のひらの上で翻弄されつつ、偶に甘えられたい人にオススメ。

僕僕先生
僕僕先生
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2.22
仁木 英之著
新潮社 (2006.11)
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