『アンジェリック・ノワール 1 パラダイス・ロスト』(角川スニーカー文庫)

年長者向けラノベ

『アルティメット・ファクター』(未読)の作者の新シリーズということで手を出してみましたが予想外に面白かったです。あとがきによると「生まれて初めて、十代の少年を主人公にした物語を書いた」「どんなに若くても二十代の主人公しか書いたことがない」とのことで実際キャラクター、ストーリーともに大人向けの印象(というか「大人が書いたなぁ」とわかる感じ)。落ち着いた玄人な感じの文章がライトノベルの多くを占める少年向けハイテンションなノリとは一線を画していて心地よいです。

というわけでネタも大人向け。というか、あえて触れないのが「暗黙のルール」になっているようなネタに堂々と切り込むあたりが新鮮

【以下結構中盤までのストーリーを喋ります。裏表紙のあらすじに載っている情報ではあるんですが、一応予備知識ないほうが楽しめることは間違いないでしょう。ただ、その反面興味なかったけど以下のあらすじを知って読もうという人も多い気がするので書きます。】

そのひとつは「いじめ・ひきこもり」で、まず教師が「不登校のヤマネくんのためにみんなで手紙を書いてあげましょう!」なんて事を言うのがプロローグ。しかもPTAとかへの体面のための行動でしかないのでいきなり気分はぐんにょり。ちなみに主人公はこの作文を書かなかったので(さらに教師にたてついたので)謹慎を喰らい、その自分なりの”ケジメ”としてヤマネ君を学校に連れて行こうとするのです(あ、文部科学省ご推薦のような薄ら寒い友情モノじゃないのでご安心を)。

部屋でひきこもってオンラインゲームをやっているヤマネ君はガン無視なので、同じく作文を書かなかったクラスメイトでオタクゲーマーのマスダなら(同じゲーマーだし)会話できるかもーっと接触。後輩のジャニーズ系少年も仲間にヤマネにオンラインゲーム上で接触するが、ヤマネは謎の言葉を残し失踪してしまう――

ちなみにこのオタ野郎と主人公(渋谷系)の会話が笑えるオタクネタです。爆笑ってわけじゃないんですがいちいちネタのチョイスが世代ぴったりなので(でも今の子にはわからん気がする。「パトレイバー」とか)。まあ「あぶない刑事」ネタがあるだけで個人的に☆プラス1個なんですがね(ぇー


閑話休題。そしてヤマネが拉致されたのが中国マフィアがRMT(リアル・マネー・トレード)のためニートやひきこもりのゲーマーを集め、食べ物や女を世話して延々とオンラインゲームで金を稼がせる施設。なんて危険なネタを!(笑) ちなみにヒロインはここで夜伽の要員(メイド)としてバイトしてる美人クラスメイトです(ぇー

余談だけどこのシーンでエロゲ名台詞スレに投下したいと思った台詞。

「おお、ユースケ! 聞いてくれ! あの女、こともあろうに脱いで脱がせてでは飽きたらず、メイドにあるまじき不埒なおこないに及ぼうとしたのだ!」
「いったい何をされたんだよ……」
「だから、フラチナオこないだ! 鈍い奴だな! 語感でなんとなく察しろ!」(P150)

このマフィアのボスはブラクラですだよねーちゃんみたいなのなんですが、この女<<統治機構>>とか言い出しましたよ!? 仮にもラノベ業界でそのワードは酷似しすぎですから!

その後なぜか「天使」に選ばれてバトルとかわけわかんない…もといライトノベルらしい設定が唐突に登場してそっち系のバトルになっていくんですが……いや、それなりに面白かったんだけどリアル路線でも良かったのになぁ、とかちょっと思いましたとさ。

多くの少年向けライトノベルに食傷気味な頃に偶にこういう変わった味のものがあると嬉しい。

アンジェリック・ノワール 1
椎葉 周〔著〕
角川書店 (2007.3)
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