『たま◇なま ~生物は、何故死なない?~』(HJ文庫)

予想外の大穴。

まずは表紙を見て頂こう。諸君らはこの表紙からどのような印象を持つであろうか。

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫)

明らかに駄萌えコメ…ッ! 自宅の居間にいきなり美少女(ロリ)が現れ開口一番「きさま……私のつがいに、なれ」だなどと落ちモノハーレム系の典型……ッ!!

だと言うのに、ああ、なんと言うことでしょう。面白すぎて最初の第一印象にジャンピング土下座。しかも割とシリアスハード鬱な面も持っているストーリー。なんてこった。


さて、妹と両親が交通事故死し1人になった主人公。新しい学校に転入を終えて帰宅するとそこには薄汚れた少女がちゃぶ台の上に。彼女は鉱石系の宇宙人で地球を乗っ取るために人類と子孫を作り3世代以内に地球を掌握するのだとか。最強○×計画かなりトンデモな話ですがおちゃらけギャグという面は薄くて良い感じのバランス。

で、この鉱物娘は当然モノをよく知らんので勘違いトークが炸裂するわけですが、家族を失い無気力になっている主人公との会話のすれ違いがやたら面白いw これはもう好きか嫌いかですが私は大好きw 田中ロミオや王雀孫とはまた違った会話の楽しさw

「お前、内閣総理大臣になれ」
 何を言ってるんだこいつは。

「群体型ほ乳類の生態を勉強していたのだが」
「群れのボスに勝てばその地位を奪えるそうではないか」
「この地域のボスは、この老人だろう」
 後ろから、なにやらガサガサという音が聞こえる。新聞紙を捲る音だ。
 なんて事だ。地球人の情報源が、異界のモノに利用されている。
「老個体がいつまでものさばっていては、群れ自体が危機になるという」
『生き物地球紀行』の再放送でもやってたのか。余計な事すんな国営放送。
「老体を噛み殺すのは、むしろ若者の礼儀だ」
 他人を勝手に改造するヤツに礼儀を説かれたくない。
「お前はそこいらの個体には負けん。そのように作り替えてやったからな」
「だから、お前は、内閣総理大臣になれる」
 一拍置いてから、答える。
「生憎、おれ宇宙語は分からん」
「私は今のところ、日本語しかしゃべれないのだが」
「おれもだ」
「ふむ。情報伝達に齟齬が生じているな」
 難しい事言うな。
「確かにこの素体の周辺環境認識限界値及び環境干渉能力は低すぎる。きさまら、よくこんな個体で集団生活など送っていられるな」
「お前、賢いのか馬鹿なのかはっきりしろ。落ち着かん」
「奇跡としか思えん」
「同感だ」
「不可解な返答だ。我らの会話は、ひょっとして成り立っているのか?」
(中略)
「人間社会はサル山じゃないんだ」
「ヒトはサルだろう。そうではないとでも言うつもりか」
「人間はサルより賢いんだよ」
「それは斬新な発想だ。根拠は分からんが」
「だから、ボスを喧嘩で決めたりはしないんだ」
「ではどうやって決めるのだ」
「え?」
「ヒトはボスをどうやって決めているのだ」
「……そりゃお前」
 口ごもった。
「…………話し合いとか」
「知らんのか」
 うわ。今、物凄い馬鹿にされた。(P11)

「……ところで、質問があるのだ。答えろ」
「何だよ」
「カクヘイキは、どこへ行けば手に入る?」
「……は?」
 透は、新聞を捲った。
核兵器、だ」
 少女の視線の先、テレビを見てみる。戦争のドキュメントだ。
 核ミサイル基地を模したスタジオで、コメンテーターが偉そうに喋っている。
「何に使うんだそんなもん」
「破壊と殺戮に使うのだ」
 言い切った。
「他に使い道があるのか」
「平和維持とか安全保障とかにも使える」
「冗談は嫌いだ」
「すまんな」
「私は真剣なのだ」
 少女は頷いた。
「で、どこへ行けば手にはいるのだ」
「コンビニに売ってるよ」
「コンビニとはなんだ」
「店」
「それは旧ソ連とか中近東あたりにあるのか」
 なんだそのハンパな知識は。
(中略)
「日本には平和憲法って物があるんだが」
「機械はスイッチを押せば作動する。他の要素はない」
「お前、時々核心つくよな」(P49)

(図書館にて)
 少女は形のいい顎に小さな右手を添え、案内板を眺める。
「重要度の高い知識から吸収すべきだと思う」
「勝手にしろ」
「ヒトの交尾についての資料はどこにある」
「ない」
「私の計画には、必須の知識なのだが」
「知るか」
「図解入りだとなお良い」
「あってたまるか」
「できれば無修正で」
 こいつとは一回、ちゃんと話を付けた方がいいかもしれない。
「ないっつってるだろ」
「案内所で聞いてこい」
「断る」
「では、私が自ら聞くことにする」
「お前がそれやった瞬間、おれは全力で逃げるからな」
「それは困る。私は一人では帰れない」
「じゃあやめろ」
「品揃えが悪いな」
「諦めろ」
「帰りに、他の店で買う事にする」
 ……何言ってんだ……この宇宙の人……
「金はあるだろうな」
「……おれが買ってきてやるから、お前は店の外で待ってろ。な」
「きさまに任せると、資料傾向が特殊に偏る」
「何を根拠に!」
「雰囲気だ」
「非合理的な事言うな」(P74)

これは第1回ノベルジャパン大賞<大賞>ってのもわかるわー。オススメ。