『死神のキョウ』(一迅社文庫)

さてラノベ戦国史一迅社が参戦しましたね。ビッグネームではないものの中堅どころの作家を第一陣に揃え、表紙イラストも白背景で統一感と綺麗さがあって良い感じです。なにより背表紙にイラストを大きめに、でもうざくならない感じに入れているのが「わかってるな」という感じ。ラノベは表紙で買われるのだから棚に並べられたときに見える背表紙でも買われるだろう、ってのは自然な考えですよねー。なんかソツがなさすぎて直近のガガガが下手すぎたこともあり逆にお手本すぎて笑える。

ところで初期メンバーが公開された時杉井光十文字青わかつきひかるよりも個人的に目を引いたのが魁。「魁かー。いいチョイスだ。」と素に感心しました。ビッグネームじゃないですが堅実なエロゲライターですよ。『ALMA』(2003年5月発売)は設定なシナリオ運びに粗はあるけど感動させるところでしっかり感動させてくれる良作でした。まぁ、延期が日常茶飯事なこの業界においても開発末期にシナリオライター(魁)がバイク泥棒に刺されたから延期した作品ということのほうが有名かもしれませんが。(しかし当時のスタッフ日誌がすげー面白かった記憶があるんだがもう消えちゃったか…)

閑話休題。おやおや中の折込チラシの表紙が本作品ですよ。扱い一番大きいですよ!? でも帯には「大人気ゲーム『CLANNAD』の人気ヒロイン藤林杏シナリオの作者”魁”初のオリジナル小説ここに登場!!」と書かれていて「あ、ALMAのメインライターじゃなくて、CLANNADのサブライターのほうで目をつけられたんだ…」とかなりせつなくなりました。杏、キャラはいいんだけど個別シナリオ微妙だし……。でも作者自己紹介で刺されたことを言っていてちょっと懐かしかったです。

さて本作。日本刀を持った死神少女が現れ「あなたのことを守りにきました」「いや、殺しに来たんじゃねえの?」と同棲する話です。死神さんはちょっと暴力が先に出ちゃうツンデレさん。主人公が少女をからかう→少女恥ずかしがる→日本刀でキ♥ル→ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜という伝家の宝刀なテンプレですがだがそれがいい。いや、死神の日本刀は物理的に切れないので死なないんですけどね。死ぬほど痛いらしいですけど。

「守りに来ました」なんて学園異能バトルモノ?と思ってたんですがバトルなっしん。「男でもいい!避妊するから!」な親友(♂)と、「BL写メとってブログにうpだお」な委員長(♀)と一緒にドタバタマターリな学園ラブコメ。あとがきにも書かれてますが作者がゲーム畑のため地の文が拙く、会話だけなので雰囲気がよく伝わってこない感じ。まあ後半はわりと改善してきましたし、それを差し引いても「いかに会話だけで楽しませるか」が身上のゲーム畑作家の会話は面白いです。

このままヌルコメでいくのかなー。まあかわいいからおk、と思っていたら途中から急転直下ですよ! そうだこの作者はそういう奴だったよ! 前半の「別にヒロイン死神じゃなくてもよくね?」という考えが吹っ飛び、ちゃんとテーマの中心になってきます。いい感じに重みもあって個人的には好き。ただ、前半とのギャップがすご過ぎるんで吃驚しちゃう読者も多そう。あと伏線があまりに堂々としすぎていて気づかなかった自分が悔しい(ぉ

総じてなかなか良作でした。魁という名前を知ってたなら是非。新レーベルの一迅社文庫をちょっと読んでみようかな、という人にも良さげ。あとバイク(自転車)に二人乗りというシチュを描かせたら魁の右に出る者はいませんよ。そんなシチュが好きな人にも。


余談。それにしても…作者どんだけ「キョウ」という名前に思い入れあんねん、と。『ALMA』の麻宮梗、『Clannad』の藤林杏、そして今回の黒谷鏡ですよ。そして全員良いツンデレですよ!
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