『θ―11番ホームの妖精』(電撃文庫)

おぉ。これは良い。

ラノサイ杯で気になった「θ」ですが、やー、これはアタリでした。設定、キャラ、ストーリーともに良く、きっちり自分の世界(物語)をモノにしてる感じ。この作者はデフォ買い決定だなー。

今から100年くらい先(?)の、「どこでもドア」な鉄道がライフラインとなっている未来。東京上空2200mに浮かぶ、普通の人には知られていない小さな小さな「東京駅11番ホーム」には一人の女性駅員と一匹の大型犬(もとい狼)が地上のホームでは対応できない”やっかいごと”を処理しています。

おとぼけした優しげな駅員さん「T・B」と大型犬・義経との楽しいやりとりや接客業であるところになんとなく『ARIA』っぽい癒しを感じますが、起きる”やっかいごと”は結構ヘビー。国家機密を半島に売り渡そうとする公務員が逃げ込んできたら国家の陰謀だったり、旧世代の情報媒体を保管していたらガンシップに爆撃されて全身ズタボロになったり。なんだこれ。「戦うウンディーネさん」か。

ここまでバトっちゃえるのはT・Bが国家機密レベルの過去を持ったサイボーグで、特殊能力を発動できるからです。この能力発動もホームの人工知能・アリスに役職、権限、パスワード、適用する条項を伝えて承認を得てから発動というプロセスを経るのでかっこいいです。西洋ファンタジー的な呪文詠唱はなんか気恥ずかしいけどこういうのは大好きなんですよ。本質同じだろうになー。


あらすじだけだとまあちょっと変わった設定のラノベかな、くらいなんですがこの設定とプロットの肉付けが一般のラノベよりしっかりしているのです。北朝鮮拉致問題や情報クライシスの問題を盛り込んだり、「どこでもドア」の技術を日本が独占していることからの世界的な軋轢や、国内での開国派VS鎖国派の対立など”読み応え”があるように肉付けされています。T・Bの境遇も単なる「俺TUEEEな特殊能力持ち」や「待ち続ける健気な少女」ではなく、ズタボロに傷つくし、力を行使したことで罰も受けるし、周囲にかける迷惑は直球で指摘されるし、その自己欺瞞は自分でも気づいているし、と安易な記号的キャラが多いラノベの中にあって一際目立つ造型でした。

かと言ってラノベから離れすぎてるかっていうとちゃんとラノベなのです。文章が難しかったり読みにくかったりするわけでもないし。男気溢れる大型犬・義経をあしらうT・Bとのやりとりは面白く微笑ましいです。特に義経、「男らしくてカッコイイ、でも犬。」みたいな良キャラです。ストーリー面でも「T・B」の名前の意味やθのおまじない、実際に存在しない「東京駅11番ホームで会おう」という約束、娘にプレゼントした香水の由来などニクイ演出がなんてゆーか、うますぎて卑怯です。


まだまだ続きが読みたい。これは是非シリーズ化を希望。にしてもこの出来でラノサイ杯7票は少ないとしか言えない。きっと読んでる人が少ないに違いないのでオススメです。

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)