09/23

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『クリスマス上等。』(MF文庫J)

これは面白い!

今月買う新刊がやたら少ないので2005年10月に1巻が発売され、2007年4月に全8巻で完結したシリーズに手を出してみました。前から気になってはいたのですよ。

いやぁ、新人でこれだけ書ければ超オススメしまくってラノサイ杯でも問答無用で投票してましたねぇ。

まず外形から。

1巻は『クリスマス上等。』。単品でも面白い。
それから4巻までが1冊1エピソードな感じで第一期。
5巻の短編集と6〜8がまとめて1エピソードで劇場版。

という感じ。4巻で一応の大団円だったのに吃驚しました。1巻が面白くてまとめ買いを決定したものの全4巻くらいだと思ってたら実は8冊も出てたので。区切りは上記の通りなので試しに読んでみて気に入らなくても途中で止めやすいかも?

基本恋愛モノですが新キャラの女の子が登場してもグズグズな三角関係にならずにずっと一途なまま、っていうのが良い感じ。あと発売日も劇中のイベントと同時期にしていたのでリアルタイムに追えなかったことは今さらながらちょっと残念。


さて『クリ上。』のあらすじ。目つきが悪くテンション高め、ちょっと暴力とか振るっちゃいそうな、でもクリスマスイヴに独りでケーキを買って部屋で寂しくなっちゃうような少年・五十嵐鉄平。

そんなイヴの夜、部屋に赤いおかっぱ頭に赤いスーツを着込んだ女がいきなり登場。テンションの高い電波女がマイクを向けつつ言うことには彼らはこの世界(第三世界・外世界)よりも上位の世界(第一世界・内世界)のTV局員で『外世界ウォッチング』が人気番組。今回は4時間生放送の特別企画! 『薄幸少女を救え!』

なし崩しで拉致られた鉄平が連れていかれたのは夜の公園。ブランコに寂しく腰掛けている”薄幸少女”はクラスでもあまり目立つことのない少女・古都ゆかり。以前、両親を喪いながらもクラスで気丈にふるまうゆかりに投げかけた言葉はずっとゆかりの心に残っていた。

ベンチで鉄平と話したおかげか、ちょっと元気になったゆかりは自宅のパーティーに出席する決意をし、鉄平を誘う。それは実は超巨大企業KOTOのパーティーで、ゆかりはその後継者――

そんな中パーティー会場で起こる銃声、テロル。ゆかりとゆかりの祖父が拉致され救えるのは鉄平ただ一人――内界人のちょっとした手助けだけで一般人・五十嵐鉄平の戦いが始まった!



いやぁ、テンポが良いし、ストーリー展開も斬新で面白いです。キャラクターもそれぞれ魅力的だし、イラストも奇麗めで雰囲気にあっています。

ちなみにこのシリーズの基本は「純愛ラヴコメ。でもいいところでテロが起きる」です。普通なら「ありえねー」って思ってしまうところですがその前に「異世界」という要素を入れて読者に心の準備をさせているのでスムーズに作品世界に入っていけてるような気がします。

↓の名シーンのようなちょっとほろりとくる話もポイント高し。

クリスマス上等。 (MF文庫J)

クリスマス上等。 (MF文庫J)

『クリスマス上等。』(MF文庫J)P112

「……ん」母は気だるげに娘に目をやった。「まだいじけてんの?」
 ゆかりは頬をふくらませてそっぽを向いた。
「仕方ないじゃん。善一は仕事なんだから。今夜もせっかくのイヴだけど……運が悪かったのよ」
「お母さんはさびしくないの?」ゆかりは弾かれたように顔を上げて言った。「休日も祝日も私の誕生日もお母さんの誕生日も結婚記念日もお正月もクリスマスもいっつもいっつもお父さんは仕事仕事仕事で帰ってきてくれない! お母さんはさびしくないの? 私は――私はさびしいよ!」
「……そりゃまあ、いろいろ寂しいけどさ」激昂するゆかりに対し、何故か母は頬を染める。「うずいたりとか……ごにょごにょ」
「? うず?」
 ゆかりは拍子抜けして首を傾げた。当時十歳。
「あー……うん。ちょっとゆかり。お母さんがいい話してあげるから、聞きなさい」
 言って、母は背筋を伸ばして姿勢を正した。「えー?」と思い切り不満の声をあげつつも、ゆかりも同じように背筋を伸ばした。
 やたら自信ありげに、母は訊ねた。「ゆかりの夢は何?」
「……夢?」
「そう。あんたの夢」
「……お嫁さん」
「確か作文では『看護婦』って書いてたわね」あっさりバレた。
 知ってるなら聞かなくてもいいじゃん、とプチ反抗期だったゆかり十歳は思った。
「んじゃあ、お父さんの夢は?」
「……お父さんの?」
「そう。善一の」
 ゆかりはぱちくりと瞬いた。考えたこともなかったからだ。
「善一の夢は、今の仕事」
「……」
「ゆかりは自分の夢を否定されたり邪魔されたくないっしょ? それと同じで、善一の夢を否定したり邪魔したりしちゃダメなんよ。善一はまだ、叶えてる途中だから」
「……なんか」ぷう、と頬をふくらませてゆかりはこぼした。「上手く丸めようとしてない?」
「え? してないって。私は善一にこう言われて納得したよ?」
「それ、お母さんがだまされてるんだよー!」
「だ、だまされてないって! あのときの善一ったら、もう、カッコよかったよ? あたしなんてもう、めろめろよ?――ああもう、思い出しただけで大変だわ!」
「……もういいよ」興奮し出したら母は手に負えない。ゆかりは肩を落として座席に身体を埋めた。「どうせお父さんは来ないんだし……」
「……あー。まあそういうわけで、今夜は我慢ね。ね?」
 ぷう、と再びゆかりは頬をふくらませた。そんな娘を母は困ったように見つめる。
「……ねえ、お母さん」
「ん?」
「お母さんの夢は何なの?」
 それは、何気なく浮かんだ問いだった。
 母はぱちくりとさせてから、ニヒッと笑った。「そんなの決まってんじゃん」
 ゆかりの頬をそっと撫でて、
「今の生活が、あたしの夢であり幸せでもある」照れくさそうにはにかんで、「夢は、ゆかりと善一(あんたら)の家族でい続けることさ。――私もまだ、叶えてる途中だよ」



 ……そのときゆかりは、図らずも「いいなぁ」と思ってしまった。
 胸を張って家族を自分の夢だと言ってのけた母に、感動してしまったのだ。
 なんだかんだ言っても、やっぱり自分は母のことが大好きだった。愚痴っぽくて世界レベルの社長の嫁のくせしてどこか庶民的で旦那のことになるといつも頬を染めてわけのわからないことを呟くけど、ときどき真っ直ぐすぎるくらいに気持ちをぶつけてくれる――そんな母のことを、愛していた。
 愛していたから、報いたかった。母にとって自分は夢なのだ。『叶え続ける夢』なのだ。それを後悔させてしまうようなことはさせたくない。
 だからゆかりは決意した。そんな母の夢に相応しい娘であろうと。
 母の夢をけがさない娘になる。それが自分の『叶え続ける夢』。
 ――だから、
 誓ったから。
 ――ここで泣いて屈することは、夢(ルール)違反なんだ。