『とある魔術の禁書目録(インデックス) 13』(電撃文庫)P67

『いい加減に現実を見るんだ。そんな事ができないのは、無様に這いつくばった時点で分かっているだろう? いいかい、君はただでさえ負けている。勝つ事すら難しい相手に対して、さらにそんな夢のある希望を並べた所で何になる。妥協をしろよ、一方通行。打ち止めはもう、無傷では助けられない。どんなに最高峰の手を打ったとしても、絶対に傷を負う』
 心理的な死角から一撃を叩き込まれたような気分になった。
 知らず知らずの内に、それだけこの医者に寄りかかっていたという事か。
「……クソッたれが。それを認めたくねェから、泥の中を這い回ってでも木原を殺すっつってンのが分かンねェのか」
『分からないね。望んだ程度で何でも上手くいくなら、僕は最初から医者になどなっていない。山に籠って三六五日瞑想しているだろうさ。そんな事じゃ物理的に人は救えないから僕は医者になった。はっきり言ってやろう。君の主張は全て、実現性を無視した子供のワガママだ』
「ならどうしろってンだ? 木原みてェなクソ野郎のせいで、あのガキがボロボロにされるのを見て、にっこり笑顔で良かった良かったって言えばハッピーエンドかァ!?」
『そうだ。そのために医者がいる』
 激昂にもカエル顔は動じない。
 すらすらと、流れるように言葉が続く。
『腕が折れようが皮膚が剥がれようが内臓が潰れようが、生きて僕の元まで連れて来れば必ず治す。命を守り傷跡も残さず精神的なケアまで含めて完璧な形で君の大切な人を救ってみせる。その期待に応えるのが医者ってものだ。だから一方通行、君は余計で無駄な高望みなどせず、ただただ打ち止めの「命」を助ける事だけを優先しろ。それが一番大切なものだ。僕みたいな未熟者の腕では取り返せない唯一のものだ。違うかい? もしも違うというのなら、あの子の命よりも大切なものを今ここで言ってみろ』