『円環少女 5 魔導師たちの迷宮』(角川スニーカー文庫)P106

「せんせってときどき、荷車を引くウマみたいにつらそうな顔をするのね。でも、ウマって、背中にご主人様を乗せてお尻にムチを入れられてるときが、一番生き生きしてると思うの。せんせも、ムチをもらったウマみたいに、大声ではずかしいこと言いながら汗を飛び散らせて仕事してるときのほうがステキよ、絶対だわ!」
 黒髪を風に遊ばせるにまかせて、あどけない魔女がはにかむ。不意の突風でメイゼルの服が無防備に引っ張られ、あばらから腰へいたる未成熟な線がはっきり浮かんだ。
「まるで、俺が仕事のとき、大声で恥ずかしいこと言ってるみたいに聞こえるんだが」
「そういう顔のほうがいいわ。せんせって、荷物をしょわないと走れない人なんだから、だれにのっかられたら一番気持ちいいか、よく考えたほうがいいと思うの」