『さくらファミリア!』(一迅社文庫)

「言う通りにしたのに祐太は思い出さなかった!」と、エリはぼくを指さして憤慨する。
「最後までやらないからよー。ゆんゆんはエリさまのはじめての人だし、赤ちゃんがやってくるのはコウノトリでもキャベツ畑でもないってさっき教えたでしょ?」
「あんたなに教えてんですか! それでも天使かよほんとに!」
「困るなあゆんゆん。ちゃんと聖書読んでるの?」
 ガブリエルさんはぼくのベッドまでふわっと飛んでくると、隣に腰掛けて肩をすくめる。
「マリアさまに受胎告知したのはだれだと思ってんの」
「……そういやあんた(ガブリエル)でしたね。だからなに」
「いい? ヴァージンの娘んとこにいきなり飛んでって、妊娠してますよって教えてあげたのよ? しかもそれ、私のいちばん有名な登場シーン。もう存在自体がセクハラなわけ」
「もうちょっと言い方ってもんがあるでしょう!」
「そんなわけで私は天界の性教育係なのだっ」
「胸張って言うな!」
「あ、ごめん聖教育係。ここ校正しといて。各宗教団体から抗議が来ると困るから」
「もう遅いよ! ていうか紙面でしかわからないギャグ飛ばすなよ!」(P93)

杉井光も出世したなぁ。

やー、別に出世ってわけでもないんだろうけどデビュー作のあとがきに縦読み仕込んでた2chコテハンっていうどう見たってキワモノ作家だったのに、今じゃそれなりの人気の『神様のメモ帳』と『さよならピアノソナタ』を同時進行していて、新作でもサスペンスの『死図眼のイタカ』とコメディの『さくらファミリア!』をぽんぽん出したりして芸域の広さと筆の速さを見せつけてるもんなぁ。いやはや。実際普通に杉井光の新作だと買う気になるもんな。

さてそんなわけで聖書を元ネタにした押しかけ女房同居的な王道エロコメ。主人公=ユダの生まれ変わり。双子の美少女=キリストの生まれ変わり(半分ずつ)。双子の教育係・ガブリエル(エロ天使)と魔王・るーしー(現在幼女)も加わってのピンク色の同居生活。巷に溢れに溢れ過ぎている話なだけにどうするかと思ったけど、いやー面白い。聖書で下ネタっていう綱渡り効果もあるけど、普通にノリとキャラが良い感じです。情報を小出しにして余裕でシリーズ化できそうなのに無理に詰め込んでこれ1冊でちゃんと話をまとめたのもポイント高し。オススメ。

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)

さくらファミリア! (一迅社文庫 す 1-2)