『少年検閲官』(ミステリ・フロンティア)

まさにミステリ・フロンティアアイディアの枯渇と焼き直しでしかないという問題に苦しむミステリ業界において真摯に新たなトリックを開拓しつづける作家・北山猛邦

政府により「本」が規制され「本」を知る者が殆どいない世界。「本」を所持することは重大な罪であり、「検閲官」に見つかれば屋敷、街ごと焚書されてしまう。

「ミステリ」を知らない人々。人が人を殺すことを知らない人々の町で「ミステリ」を知る者がその「トリック」を用いて殺人を犯した場合、それを犯罪と看過できる者はいるのだろうか。

イギリスからの旅人クリスは日本のある町に宿をとる。その町では森に近づくと『探偵』という怪人に首を切られて殺されてしまうのだそうだ。そして実際に起こる殺人事件。町の家の扉に4年前から何度も残され続ける赤い十字架の落書き。謎を深める事件の解決に「ミステリ」のための「検閲官」エノが「ミステリ」を「削除」するために町を訪れる――


流石北山。古き良き”作者VS読者の「頭脳戦」としてのミステリ”。作者のスタンスは変わらず読者に対してフェアプレー。果たしてあなたは真実に気づけるでしょうか?突飛なトリックではありません。ですが眼前に提示されていながら気づけなかったある事実を知らされた時あなたは衝撃を受けるでしょう。

古典といわれる”古き良きミステリ”、ホームズやクリスティーなどの英雄としての探偵譚に憧れた人、最近は科学捜査が進歩しすぎてつまらないと思っている人にクリティカル。どこかノスタルジックな町。そこで起こる陰惨な猟奇殺人。

今回は何より世界観とトリックが素晴らしい。「少女の死体を見つけた少年が部屋に死体を匿い、壊れていく死体にどうしようもなく鞄に詰めて森へ向かう」真相が一番ゾクゾクしました。


城シリーズからのファンとしては、重厚さがなくなってしまい、個人的には城シリーズのほうが好きだったりします。とはいえせっかくの別出版社、新シリーズなのですから。雰囲気はミスフロによく合っていると思いますし、なによりこれから北山を読む人にはかなり入りやすくなったと思います。

少年検閲官
少年検閲官
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2. 1
北山 猛邦著
東京創元社 (2007.1)
通常24時間以内に発送します。

150部の小冊子も30日にジュンク堂開店と同時に行って無事げっと。が、挿し込みだったので色は選べず(=気づかず)ピンク。さっき2chで水色もあることを知って愕然。

内容は本当に「おまけ」だけれど北山ファンなら欲しい出来。

Q4 連続しない『城』シリーズなどで、一作ごとに違う世界を作るのはなぜ?

 トリックの性質に合わせて周囲の状況を作り始めると、それぞれ異なった世界が生まれる、という理由もありますし、探偵を含めすべての人間が犯人になりうる設定こそが美しいミステリであるという理想を求めた結果でもあります。

このインタビューや、既刊へのコメントから氏のミステリへの真摯な想いが伝わってきます。

今後の予定は

・「伝記作家の告白」(仮) 講談社ノベルス
「城シリーズ」じゃない…(´・ω・`)

・「オルゴーリェンヌ」(仮) 東京創元社
「少年検閲官」の続編。

・アンソロジー企画 東京創元社

そろそろフィーバー(死後)するんじゃないか? 割とマジにそう思ってるんだが。

ちなみに「城シリーズ何読めばいい?」って聞かれたら「アリス・ミラー城」。ラスト叫ぶよ? 「転生」というガジェットのストーリーが個人的には大好きな「瑠璃城」。この2冊のどっちかかな。所謂「閉じ込められた城での連続殺人」ならアリス、「殺しあう運命の男女」なら瑠璃城、反応したワードでどうぞw 次点「ギロチン城」。シリーズ1作目「クロック城」はちょっとまだ粗いし、シリーズ間での繋がりはないので敢えてここから読み始める必要は薄いかな。