『オイレンシュピーゲル 1 Black & Red & White』(角川スニーカー文庫)

おお。面白い。

いや冲方丁(うぶかた とう)なんて有名ドコロに対してなんですが、やはり他のラノベとは作品世界の作りこみと重厚さが段違いですな。ちなみに同日に富士見ファンタジアから『スプライトシュピーゲル』が発売しておりあとがきによれば着想は『オイレン』が先。

舞台は2016年オーストリア。事故などにより瀕死状態の少女を機械化、凶悪犯罪・テロにあたらせる。まぁ、つまり『ガンスリンガー・ガール』ですよ。あれをガラ悪くしてエロくして、未来っぽくした感じ。

本作の主人公は3人の少女の小隊。ヘビースモーカーで鉄砲玉の《黒犬》、プライドが高く素直じゃない狙撃手《赤犬》、白痴じみた楽天家の《白犬》。本作では1章ごとにそれぞれの過去、そして現在が語られる。雰囲気は不良少女って感じかな。

戦闘は機械の擬体を《転送》という体。ワイヤーなどはあるものの、狙撃など割と古風(スプライトシュピーゲルのほうは空を飛ぶ)。

ストーリーは結構暗い展開。ただ、そのスラムみたいな世界で、不良少女たちは「あー、なんか世界とか救いてぇー」とか言いながら今日も銃を撃つのでしたとさ。


そういえば文章の表記が面白い。たとえばP69。涼月が主人公《黒犬》で、オットーが敵さん。

 宙でビルの壁を蹴る涼月――壁を砕く銃弾/立て続け/火の雨。
 素早く着地――回り込み/一撃必殺のチャンスをつかむ。
 オットーの腹が必中の距離・角度に。
 だが、殺すなという意識――相手の胴を吹き飛ばす代わりに拳銃を狙う=一瞬の遅滞。
 いきなり膝をつくオットー=自分で撃った壁の破片を脳天に食らう/阿呆か。
 オットーの左肩を涼月の拳が抉る――タイミングが狂った/くそ。
 転がるオットーが慌てて突き出す銃口を――不愉快な既視感。
 引き金が引かれる――すぐさま放った左拳と弾丸が衝突。
 閃光

戦闘のスピードが失われず、かつ情報を欠損なく伝えられるのでこれは良い手法。他にもルビがドイツ語だったり、歴史的な小ネタがあったりと読み応えがあって、読んでいて楽しい。オススメ作品。

余談/個人的な好みの順番/《赤犬》陽炎>>>《白犬》夕霧>《黒犬》涼月。

オイレンシュピーゲル 1
冲方 丁〔著〕
角川書店 (2007.2)
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