『扉の外』(電撃文庫)

電撃小説大賞<金賞>。受賞時のタイトルは『もしも人工知能が世界を支配していた場合のシミュレーションケース1』で、この胸キュンタイトルに比べて『扉の外』との改題は地味になっちゃったなぁ、と思いましたが読み終えてみると深いタイトルで見直しました。

というわけであらすじは受賞時タイトルまま。人工知能により修学旅行の途中で拉致され、未来的な部屋に監禁されクラス対抗の<ゲーム>(ディスプレイ上の戦略シミュ)をするという閉鎖状況に追い込まれたクラス31人の中でコミュニケーション能力のない主人公が疎外され、嫌悪されていく話。このテーマは珍しいなぁ。一昔前のトガったエロゲみたいだ(マテ

というわけで前半は「命令されなければ動けないクラスメイト」「みんなに合わせるためだけの無能な多数決」「異分子に対する熱心な、罪悪感のない悪意」と人間のいやーな部分が延々と描写され、かといって疎まれる主人公も主人公で斜に構えるだけで何もしない、「そらお前が悪いわ」と言う空気の読めない子なので処置なし。文章も1文1文がぶつ切りで、それを繋げていくので読みにくい。会話部分もキャッチボールができてない感じでやや低い評価。

「これははずれかなぁ」と思いましたが、途中途中で微エロいので読み続けていたところ、2章、別のヒロインが出てきたあたりから作品の空気が良くなりました。時代はクーデレ頭脳明晰見下し系ですよ。(ネタバレ:ヒロインが、というより6組の雰囲気が4組ほど鬱々としてないからでしょうけど)

シミュ上の頭脳戦はもっとちゃんとやっても良かったと思うんだけど、人間同士の腹の探りあいがなかなか緊迫感があってよろしい。愛美裏切るんじゃ…とか蒼井が出てこないってクラスメイトに輪姦されて殺されてるんじゃ…とかかなりダークな想像をしてたわりにそんなでもなかったですけど

「理由もわからないまま拉致監禁され、閉鎖された状況で人間は如何様に行動するか」というネタが好きな人なら買い。映画『CUBE』が好きな人とか。斜に構えた中二病的な感覚を読みたい人とか。ただ、それ以外の「もっとすっきりしたお手軽エンターテイメントが読みたいんじゃー」って言う人にはかなり向かない感じ。キャラクターも個人的には結構好きなんだけど、やや使い捨てな感じだし。

そういえば挿絵が章タイトルのみ。カラーページで人物紹介はしてあるので十分だし、下手に挿絵もいらない話ではありましたが絵師の雰囲気が個人的にかなり好みだったのでちょっと残念。瞳から表情・性格が読み取れる感じがいい。

かなりソリッドというか、無機質で鋭利な雰囲気なだけあって、かなり読み手を選ぶ結果になってしまいそうですが、私としては元々こういう話が好きなので、この手の市場がライトノベルでも存続するのは歓迎。ただ、欲を言えばラストもう一捻りあれば絶賛できるんだけどなぁ。続くのかなぁ。続いても駄作化(「CUBE」よろしく)しそうだけど。あとやっぱりキャラの使い捨て感が…舞台からの退場はいいとしてもうちょっとエピソードを増やしても良かったような気がする。あと主人公の好意の先が定まらない&理由がわからないのも気になったところ。

扉の外
扉の外
posted with 簡単リンクくん at 2007. 2. 9
土橋 真二郎〔著〕
メディアワークス (2007.2)
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